インタビュー : 2003年8月

流体技術カンパニー
クライオポンプ部
リーダー 小川元康

流体技術カンパニー
クライオポンプ部
部長 鹿野 直太
LNG船上ガス化設備用クライオジェニックポンプについて
クライオジェニックポンプとは?
鹿野
主に液化天然ガス(LNG)や液化石油ガス(LPG)を移送するポンプです。もともとLNGやLPGはガスの状態で産出されますが、ガスでは容積が大き過ぎて輸送コストが莫大なものになってしまいます。そこで一旦ガスを圧縮し、液状化させ容積を少なくして船で運ぶのが一般的です。このとき常温での液化は高圧になり大変危険ですので、液温を下げ、ガスが高圧にならないようにしているわけです。ちなみにLNGでは・63℃、LPGでは・2℃程度まで下げるので、まさにクライオジェニック(極低温)な状態になるわけです。
今回開発した船上ガス化設備用クライオジェニックポンプは、従来の製品とどこが違うのですか?
小川
まず一番の違いは、世界で初めての“LNG船上ガス化船”に使われるということです。そのため従来のクライオジェニックポンプにはない新機構を開発搭載しています。
鹿野部長が話された通り、一般的にはLNGやLPGは産出国から液体にして船で輸送され、使用国の受入基地のタンクに液の状態で一旦移送・保管されてからガス化し、火力発電所などの燃料として利用します。しかし液を輸送するための輸送船や液化基地、受入(ガス化)基地などを作らなければいけないためコストが高い、移送中の漏洩リスクがある、基地の容姿が観光地の美観を損ねる。などの理由で建設に踏み切れない国や地域があります。そこでLNG受入基地は建設せずに、LNGを運搬してきた船を海上に停泊させガス化を行い、海底のラインから直接陸上のパイプラインに移送しようというのが、今回米国の大手エネルギー会社が考案した「エナジーブリッジ」と呼ばれる方式です。その船上ガス化設備用のメインポンプとして弊社のクライオジェニックポンプが選ばれました。

開発について
具体的な開発のポイントは?
鹿野
今回開発した船上ガス化設備用の要となるポンプは船首デッキ部分に設置されますので、航海中はもとより停泊中にも波や嵐の影響を受け、ポンプ自身が波に飲まれてしまうほど上下左右に大きく揺れることもあるわけです。この揺れに耐えられる構造や仕組みを持つポンプを開発したことが最大のポイントです。
開発で一番苦労されたのもその辺りですか?
小川
はい。今までに経験のない揺れに対してどのように対処したら良いかという点に一番苦労しました。
クライオジェニックポンプの場合、構造的に複数のボールベアリングで回転体(モータシャフトなど)を支えています。このボールベアリングに対して、船の揺れなどにより発生する負荷を低減することが、重要なポイントとなります。ポンプ運転中は弊社独自の“バランスドラムシステム”という構造により、ポンプ内部を高圧で流れているLNGが浮力を生み出し、回転体で発生する下向きの荷重をほぼゼロにし、ボールベアリングヘの負荷を軽減します。しかし航行中などのポンプ停止状態ではバランスドラムシステムは機能しないので、揺れや振動が加わると内部構造、特にボールベアリングを傷つけてしまいます。そこで、貨物船に常備されているN2ガス(窒素ガス=不活性ガス)を使い、回転体をリフトアップしボールベアリングなどをポンプ筐体と接触させない“ロータサポートシステム”を開発しました。またこの他にも、運転中の横揺れに対しモータシャフト径などのポンプ強度に問題がないか検証するため、ロータダイナミクスという解析方法を用い1から回転体構造を見直し、技術的にも、構造的にも、価格的にも過不足のないポンプを開発することが大変でした
今後について
最後に今後の意気込みをお聞かせください。
鹿野
日機装のクライオジェニックポンプ事業というのは1982年の米国JCカーター社との技術契約によって本格的に始まりました。技術的にJCカーター社のポンプは画期的ではあったが成熟されていなかったためトラブルが多く、私たちはそのトラブルを解決することで、独自の技術を蓄積してきました。このような理由と様々な契約上の制約から、2000年のJCカーター社との契約解消までは、主に国内のユーザにクライオジェニックポンプを販売し、ユーザとともに技術を熟成させてきたわけです。しかし残念ながら、弊社のクライオジェニックポンプ事業の海外進出は一歩出遅れた形となってしまいました。
現在、日本のLNG設備は飽和状態になりつつあります。ですから私たちは、今後大きく伸びようとする海外市場をターゲットに定め活動を進めてきましたが、契約解消からの2年間というのは今まで実績のない海外市場に食い込むために苦労の連続でした。ようやく弊社の蓄積された技術力が海外市場でも認められ、大口受注をいただけたときには今までの苦労が報われる思いがしました。そして今回、世界で始めての“LNG船上ガス化船”に使われるクライオジェニックポンプを受注できたことは、20年間弊社の技術者が苦労しながら積み上げてきた努力の集大成が信頼性のあるポンプを造り上げ、そして新たな領域へと製品を躍進させたと考えています。
今、LNGなどのクリーンエネルギーには追い風が吹いています。だからこそクライオジェニックポンプのリーディングカンパニーとして、業界一位を目指して先頭を走り続けていきたい。そのためにも足を地に着け、脇を固めてがんばらないといけないと思っています。部員一同胸中は燃えています。
小川
近年の傾向としてクライオジェニックポンプの大型化が進んでいます。ポンプ1台の価格は上がりますが、従来2台使っていたところを1台で賄い、設備の小型化とトータルコストを下げようとしています。当然大型になれば技術・製造も難しくなりますから、これからも常にチャレンジ精神を持って、次の世代に誇れるような技術の開発・蓄積をしていきたいと思っています。
LNG船上ガス化設備用クライオジェニックポンプ
LNG船上ガス化設備用
クライオジェニックポンプ
特長
造船所: 大宇造船海洋(韓国)
船主: 商船三井(日本)・エクスマール(ベルギー)
1隻辺りに使用されるポンプ設置台数
- オンデッキ高圧ポンプ(送出能カ205m3/h) 6台
- インタンク型ポンプ(送出能カ620m3/h) 3台
- オンデッキ小型高速高圧ポンプ(送出能力20m3/h) 2台
まめ知識
LNGって何?
LNGとは、Liquefied Natural Gas(液化天然ガス)の略語で、メタンを主成分とする天然ガスを冷却・液化したもの。太古、動物や植物が海の底に沈み、泥の中に埋もれているうちに、地熱や大きな圧力を受けて、徐々に分解してできたものといわれる。世界に広く分布(中東、ロシア、アフリカ、アジアなど)し、クリーンで、カロリーの高いエネルギー。天然ガスの主成分であるメタンは常温・常圧のもとではガス状態にあり、・62℃まで冷却すると液体となり、元の体積の1/600という小容量になる。この性質を利用することにより、パイプラインでは輸送できない地域でもタンカーにより、大量の天然ガスを液化天然ガスとして輸送し、利用することが可能になった。
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